大判例

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大阪高等裁判所 昭和40年(ネ)1698号 判決

控訴人

亡山本美吉訴訟承継人

山本志磨

他七名

代理人

木崎為之

他一名

被控訴人

Y1

被控訴人

Y2

被控訴人

株式会社興人

代理人

北川敏夫

他三名

主文

本件控訴を棄却する。

原判決主文第一及び第二項を次のとおり変更する。

被控訴人Y1は、控訴人山本志磨に対し一万円、その余の控訴人等に対し各二、八五七円及び右各金員に対する昭和三〇年七月一八日以降その完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

被控訴人株式会社興人は、控訴人山本志磨に対し九四、六六六円、その余の控訴人等に対し各二七、〇四七円及び右各金員に対する昭和三〇年七月一九日以降その完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

控訴費用は控訴人等の負担とする。

事実

控訴人等は「原判決中亡山本美吉敗訴の部分を取消す。被控訴人Y1及びY2は、連帯して、控訴人山本志磨に対し九八八、二六三円、その余の控訴人等に対し各二八二、三六〇円及び右各金員に対する昭和三〇年七月一八日からその完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。右につき予備的に、Y2は、控訴人山本志磨に対し一〇〇万円、その余の控訴人等に対し各二八五、七一四円及び右各金員に対する昭和三〇年七月一八日以降その完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。被控訴人株式会社興人(以下「被控訴会社」という)は、控訴人山本志磨に対し二四一、六六六円、その余の控訴人等に対し各六九、〇四七円及び右各金員に対する昭和三〇年七月一八日以降その完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。控訴費用は第一、二審とも被控訴人等の負担とする。」との判決並びに担保を条件とする仮執行の宣言を求め、被控訴人等はいずれも主文第一項及び末項と同旨の判決を求めた。

各当事者の主張は、次に訂正・附加する外、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。〈以下省略〉

理由

第一、控訴人等の被控訴人Y1に対する請求について〈省略〉

第二、控訴人等の被控訴人Y2に対する請求について〈省略〉

第三、控訴人等の被控訴会社に対する請求について

一、控訴人等と被控訴会社との間においては、本件山林内の立木がもと被控訴会社の所有であつたこと及び被控訴会社が昭和二六年九月右立木の一部を日野上農協に売渡したことは争いがなく、本件山林内の立木は被控訴会社がそのうち主として松をパルプ用材として使用する目的で右山林所有者から買受けたものであり、日野上農協に売渡されたのは右立木中針葉樹(但し松の外には杉が数本あつたに過ぎない)を除く雑木全部であつたが、右売買においては、右雑木中本件山林内の林道、木馬道の敷設に必要な分は被控訴会社において伐採使用することができ、かくして敷設された林道、木馬道は日野上農協においても無償で共に使用することができる旨の特約があつたこと、右雑木は、その後日野上農協から井川貞雄を経てY2に売渡され井川とY2との売買には林道の使用に関する約定があつたが、更にY2からY1に売渡された際はこれらの点について明示の特約はなされなかつたこと、並びに被控訴会社はその間右雑木の一部を使用して本件山林内に延長約二、〇〇〇米の林道を敷設し、被控訴会社から本件山林内のパルプ用材の伐採搬出を請負つた岡本達治も同様にして林道、木馬道を敷設して、右搬出のために使用していたことは、前認定のとおりである。

ところで、控訴人等は、被控訴会社は日野上農協に対し前記林道の使用を許諾する条件で本件山林内の雑木を売渡したのであるから、右雑木の転得者である控訴人等先代に対しても右林道等の使用を許容すべき義務があり、仮に日野上農協との間に右のような特約がなくても、右雑木の売主として当然に同様の義務を負担すると主張する。

一般に、山林内の立木を地盤たる土地とは独立して取引の対象にしたときは、買主は買受けた立木を伐採、加工、搬出しなければ売買の終極の目的を達することができないわけであるが、当該山林に林道がなく且つ公道も通じていない場合には、買主はその搬出のために林道を新設しなければならないことが多く、本件においては、前記乙第一号証によると、本件山林所有者は被控訴会社が伐採した立木の搬出路を設け本件山林の地盤を無償で使用することを約諾する旨の条項があり、被控訴会社の前記林道等の敷設は右契約に基いて行われたものと認められる。また、当該山林内に既設の林道があり或いは第三者が林道を敷設する計画のある場合には、山林の地形上林道敷設の場所がおのずから限定されることが多く且つ他に林道を敷設することが可能なときでもそのための労力と経費を節減する上で既設のまたは第三者の敷設する林道を使用することが買主にとつて必要若くは有利であることが充分推測されるのであるが、右林道の敷設者が立木の売主でもある場合に、林道敷設者は立木の転得者に対しその林道の使用を許容する義務を当然に負担するものであろうか、換言すれば、立木の転得者は当然に林道の使用権を取得するものであろうか。

先ず、前認定のように、日野上農協に本件山林内の雑木を売渡した被控訴会社は同農協に対し前記林道等の使用を許容しているのであるから、日野上農協が契約上の権利として右林道等の使用権限を有することは明らかであるけれども、右林道等は本来被控訴会社がパルプ用材の搬出のため敷設した営業上不可欠の施設であるのに対し雑木の買主も製造した薪炭を搬出するために営業上頻繁に右林道等を使用するであろうことが予測され、その共同使用の関係や修理費用の分担等について様々の調整を必要とすることを考えると、被控訴会社が日野上農協に林道等の使用を許諾したことを以て、当然黙示的に雑木の転得者に対する使用許諾まで包括してなしたものと認めることは困難である。また、日野上農協の林道使用権が雑木所有権の内容の一部或いは独立の物権として転々譲渡されるものと考えることができないことは言を俟たない。

しかし日野上農協がその買受けた雑木を自ら伐採することなく、他に転売することも、これを禁ずる特約が認められない以上、当然ありうることであり、またその転買人から更に第三者へ転々譲渡されることも当然予想されることであつて現に前認定の如く本件雑木は井川貞雄からY2を経て、Y1、控訴人等先代へと転々譲渡されているのであるが、前認定の転売価格、原審検証の結果その他弁論の全趣旨に照すとき、これらの転買人がその取得した雑木から生産する薪炭を搬出するため、新に林道、木馬道を新設することは、地理的にも地形的にも困難であるし、採算上も困難であり、所詮被控訴会社ないし岡本の設置した林道等を使用しなければ、買受けの目的を達し得ない状況にあることは想像に難くない。いわば林道木馬道の使用権取得は立木の取得に附随した必要事項であると考えられる、従つて日野上農協が右雑木を井川貞雄を経てY2に売却するについては、当然被控訴会社に対して有する林道木馬道の使用権も共に譲渡する趣旨であつたとみるのが相当であるし、また林道木馬道の使用が許される以上その補修に必要な雑木の伐採使用を被控訴会社に許容する趣旨であつたとするのが相当である。Y2からY1へ、同人から控訴人等先代への雑木の転売についても同様であり、被控訴会社との関係では当審におけるY1本人尋問の結果(第二回)によつて成立を認められ、その余の当事者間では〈証拠〉によつて認められるように、右井川とY2間、Y1と控訴人等先代間の各売買において、林道の使用権ないしその譲渡を前提にしているのも這般の消息を物語るものといえる。

しかしながら、右使用権の譲渡は被控訴会社の承諾がなければ、これをもつて被控訴会社に対抗し、その使用権を主張することができないのは、賃借権譲渡の場合と同様であるが被控訴会社は自己の事業たるパルプ用材の搬出に著しい支障を来す等特段の事由がない限り、承諾を拒否することは権利の濫用として許されず、少くとも被控訴会社が日野上農協と約した使用条件が譲受人によつて遵守される限り、通常これを承諾すべき筋合のものと解するのが相当である。そして被控訴会社と日野上農協との間で約定された使用条件を細述すれば、「被控訴会社設置の林道木馬道は日野上農協も無償で共用することができる代りに、日野上農協所有の雑木中右林道、木馬道敷設に必要な分は被控訴会社において伐採使用することができる。林道木馬道等の修理を要する場合は両者の合議により負担割合を決定する。日野上農協において木馬道を敷設したときは無条件で被控訴会社の使用に供する。同一地区内において同時に作業し、あるいは被控訴会社が都合により先きに松の伐採に着手し、雑木に損害を及ぼすことがあつても、日野上農協は被控訴会社に対し損害賠償を請求することを得ず、その他日野上農協は被控訴会社の事業遂行に支障なきよう誠意をもつて問題の解決を図るものとする。」というにあること、前記乙第二号証によつて明らかである。従つて日野上農協から雑木を転々譲受けた控訴人等先代は、右約定に基く林道、木馬道等の使用権も随伴して譲受けたものであり、その間の右使用権の譲渡は相対的に効力を生じているのであるから、単に被控訴会社に無断で右林道、木馬道の使用をしたからといつて、その事の故に被控訴会社が当然その使用を阻止できるものとはいい難く、控訴人等先代の使用を阻止できるのは、その使用方法が日野上農協との約定の範囲を逸脱し、被控訴会社の事業の遂行に著しい支障を生じるとか、使用による林道等の破損の修理に応じない等右約定に違反し継続的な共同使用関係の基礎をなす相互の信頼関係を維持することができない背信的な事由が存する場合に限られるとするのが相当である。

そうでないとすれば、控訴人等先代は前記の如く雑木を転買しながらその終局の目的を達しないことになる反面、被控訴会社側としても、〈証拠略〉を綜合して推知できる如く、本件山林の面積は広大であり、従つて被控訴会社の取得した松立木の数量も多量であるため、その伐採期間は昭和三五年一二月五日までの長期にわたり、伐採が漸次山奥へ進むにつれ、林道、木馬道の新設も必要となるのみならず、既存の林道、木馬道も、橋桁、盤木等が二、三年で老朽化し取り替えなければならないのに、それらに使用する雑木の伐採が許されないことになつて(原審におけるY1の本人尋問の結果によつて認められる如く、松は曲つたものが多く、林道、木馬道用には適しない。)、林道、木馬道の新設、補修ができず、パルプ用材の搬出が不能あるいは困難となることも予測せられ、かくの如きは当事者双方の意思に反するのみならず、実際的には不当であるからである。このようにみてくると、あたかも賃借権の無断譲渡が行われても、賃貸借の信頼関係を破る背信的な事由が認められない限り、これを理由とする賃貸借の解除は許されず、従つて賃貸人は譲受人に対し賃貸物件の使用を禁じ、その引渡を求めることができない反面、譲受人は賃貸人に対し賃料支払義務を負担すべきものとされているのと類似した関係に立つといえる。

二(一)、本件の如く、一つの山林の松立木の所有者と雑木の所有者とが異なるに至つた場合、前者の敷設した林道等の施設を後者も使用することができるか、また前者は林道等の増設あるいは補修に必要な限度で、後者所有の雑木を伐採使用することができるかという点についての、本件山林の所在地たる山陰地方の慣習は必ずしも明確であるとはいえないが、原審証人井川貞雄(第一回)が右雑木所有者は林道等の設置者の使用に支障がない限り、その林道等の使用が許される慣習の存在を認めながら、他方その使用には林道等設置者の許諾を求めるべきである旨供述し、原審証人柴原武義、同菊谷克已及び同水上徳太郎(第一回)はいずれも林道等の設置者はその補修等に必要な周辺雑木の伐採使用が許される慣習の存在を認めながら、右証人菊谷は他方で林道の使用については、周辺雑木の所有者も設置者の許可を要する旨供述し、原審におけるY1(第三回)は右の許可までは必要と思わないが、使用させて貰うための挨拶は当然であると述べ、また右証人水上は右慣習の存在にもかかわらず、林道等の設置者は周辺の雑木を伐採使用するについてはその所有者の承認を求めるべきである旨供述しているのは、林道等の設置者は自己の使用に著しい支障を来さない範囲で、雑木所有者の申出に応じ林道等の使用を許諾すべき筋合いであるとともに、他方雑木の所有者も林道等の使用が認められている限り、それの補修等に必要な雑木の伐採使用は当然これを承認すべき筋合いであり、現実には両者の承認ないしは許諾が、明示あるいは黙示的に事前または事後に行われ、双方の伐木またはそれの生産品の搬出が円滑に行われているのが通常であることを物語るものと解される。

(二)、〈証拠略〉を綜合して認められるように、控訴人等先代は被控訴会社のパルプ用材の伐採搬出請負人であつた岡本達治から、本件山林には林道の設備があり、薪炭の搬出は容易であるし、自分もこれに協力するといわれて、心動き、本件山林の雑木を買受け、その後紛争が生ずるまでの約二箇月間は、岡本の承認(但し両人には当然被控訴会社を代理して承認する権限はない。)の下に被控訴会社設置の林道等を使用し、薪炭の搬出をしていたし、岡本も林道の破損修理のため、控訴人等先代から異議を受けることなく、周辺の同人所有の雑木を伐採して補修にあてており、また被控訴会社の社員も岡本のパルプ用材搬出作業監督のため、月に数回現場に出向いているが、控訴人等先代の林道使用につき異議を述べた形跡はなく、その後に至つて後記の如く紛争を生じ、控訴人等先代の林道使用が岡本及びその支配下の人夫によつて阻止されたため、控訴人等先代は被控訴会社に対してその不当を愬えたのに対し、被控訴会社では紛争による林道使用の一時停止はやむをえない旨を述べながら、強硬な全面的な使用停止の挙に出ることなく、手違い、誤解に基づく紛争であるとの予想の下に双方交渉による解決の余地あることを仄めかした回答を控訴人等先代に送つていること及び控訴人等先代の前々主たるY2も約二年間被控訴会社の設置した林道等を使用して、雑木を伐採加工した薪炭の搬出をしており、その間双方人夫間の感情の対立からもめごとを生じたこともないではないが、被控訴会社においてその林道等の使用を禁じた事跡のないことなどは、雑木所有者の林道等の使用並びにこれに伴う林道等の補修用の雑木提供についてはほぼ前説示の原則に従つた処理が実際上行われていることを示すものであるといえる。

三、控訴人等先代に対する岡本達治及びその使用人夫の林道使用阻止行為と不法行為。

〈証拠略〉を綜合すると、岡本達治及びその使用する支配下の人夫等が、昭和二九年三月頃控訴人等先代の人夫の林道使用による薪炭搬出を鳶口等で脅し、強引に運搬途中の荷を降ろさせ、三輪車のタイヤの空気を抜き、あるいはパルプ用材を林道上に落下せしめる等の行為によつて再三妨害し、そのため控訴人側人夫に、仕事に対する嫌気と仕事の停滞による収入減のため、離散する者が簇出し、控訴人等先代もついにその作業を中止の挙句これを放てきするのやむなきに至つたことが認められる。右証拠によれば、岡本及びその人夫等は右妨害行為に出た理由として控訴人側人夫のオート三輪車の使用による林道の破損、その補修の不完全を挙げるのであるが、一方〈証拠略〉によると、控訴人側使用のオート三輪車の方が岡本側使用の荷馬車よりも林道をいためる度台いが大きかつたとは必ずしもいえないし、また控訴人側では本件山林に入山後約一箇月余は林道の修理に力を注ぎ、搬出作業着手後も午前中は林道の修理にあたり午後から作業を始める日が続いた位で、林道の補修を怠つたわけでないことが認められ、控訴人側の林道使用が被控訴会社のパルプ用材の搬出作業に著しい支障を及ぼし、控訴人側の使用を阻止しなければならない状況にあつたことを肯認するに足る証拠はない。

むしろ前記岡村、中村両証人の証言及び控訴人等先代の本人尋問の結果によれば、控訴人側は林道の使用につき、被控訴会社側の岡本及びその人夫の優先的な使用を考慮しながらも、何分狭い林道を両者が同時に作業し使用する関係上、一方通行の場所あるいは擦れ違いの際などに、作業を急ぐ双方人夫間に自然摩擦を生じ、且つ控訴人側人夫のなかに、かつてY2の薪炭搬出作業中岡本側人夫と紛争を起した人夫も加つていたことが一層両者の摩擦を深め、その間協議による事態の解決が図られないまま、両者の対立感情の悪化はますます深刻化し、ついに岡本及びその支配下の人夫等が前記実力による阻止行為に出たものであることが認められる〈証拠判断略〉。

もつとも控訴人等先代の林道の使用権は被控訴会社において控訴人等先代の使用を認容することを内容とする債権的な権利であること前説示のとおりであるところ、岡本ら人夫の右阻止行為は何ら被控訴会社にはかることなく、独自の判断でなされた、第三者としての行為であることは、後記認定のとおりであるが、岡本らの行為は控訴人等先代の右使用権を侵害するとともに同人の営む薪炭製造販売の業務を妨害する不法行為であるというべきである。

四、被控訴会社の賠償責任

(一)、右岡本及びその支配下にある人夫の右不法行為につき、被控訴会社が指示ないし指図をした証拠はないし、況んや被控訴会社が共同の不法行為者であることを認めるに足る証拠は全くない。

(二)、そこで被控訴会社の使用者責任の有無について判断する。

民法七一五条にいわゆる使用者、被用者の関係は雇傭契約に限らず、請負契約であつても、請負人が独立の地位をもつことなく、注文者の指揮監督に服し、この点において使用人とほぼ同視しうべき関係にある場合をも包含するものと解すべきところ、〈証拠略〉を綜合すると、岡本達治は昭和二七年一〇月二一日被控訴会社からパルプ用材たる本件山林の松についての伐木、造材、搬出の作業を期限、昭和三三年一二月五日の定めで請負い、自己の雇入れた人夫を使用し、自ら設置した林道木馬道のほか被控訴会社の設置した林道を使用してその作業を行い、毎月の出材材積数に応じて月々作業代金の支払を受けていたのであるが、右作業につき岡本は被控訴会社のパルプ材の需要度に応じた伐採、集材、搬出等の計画による指図に従うべきものとされていたほか、被控訴会社またはその係員が必要と認めて指示する事項について異議なく従うべき旨定められ、かつ被控訴会社所有の松ならびにその他の物件(林道、木馬道の設備も含まれるものと解される。)及び本作業による生産材副産物につき、無償かつ善良なる管理責任を負担すべきものとされ被控訴会社は同社黒坂出張所員をして月に数回現場に赴いて巡視監督せしめていたことが認められるから、岡本は独立の地位を有する請負人というよりも、前記法条にいわゆる被用者に該当するものとみるのが相当である。従つて岡本及びその支配下の人夫の前記不法行為は被控訴会社の事業の執行についてなされたものであり、被控訴会社は右不法行為によつて控訴人等先代の蒙つた損害を賠償すべき責任があるといわなければならない。

五、控訴人等先代の蒙つた損害及びその額

右不法行為によつて控訴人等先代の蒙つた損害額は合計五六八、〇〇〇円であることは原判決説示のとおりであるから、原判決中の該当部分を引用する。

六、過失相殺の主張について

前記三、認定の事実に〈証拠略〉を綜合すると控訴人等先代の林道使用が被控訴会社側の岡本の使用と重なるときは互にある程度の不便、支障を生じ双方の人夫から苦情が出ることは、岡本は勿論控訴人等先代も予想し得た筈であり、これらの苦情の処理は、控訴人等先代及び岡本の現場における話合いが最も望ましい方法であるにかかわらず、そのような話合いの場が持たれたこともなければ、岡本及び控訴人等先代の両者何れも話合いのために十分な努力を払つた形跡もなく、また前記林道使用阻止事件発生後控訴人等先代から抗議を受けた被控訴会社鳥取出張所員菊谷克已は昭和二九年四月八日控訴人等先代及び岡本を同出張所に招き、事情を聴取したところ、岡本の言い分は林道使用の条件である補修を控訴人等先代の方でしないのが事件発生の原因であるということであつたので、控訴人等先代に対し意見を求め、岡本と十分話合つたらどうかといつて斡旋の労をとつたが、控訴人等先代は岡本と話し合つても駄目だといい、林道の使用問題から話を外し、自己の買受けた立木は雑木だけでなく、松の直径二尺五寸未満のものも含まれているから、これを伐採するといつたような話を菊谷にもちかけ、岡本と林道の使用ないし補修につき協議しようとする態度に出なかつたこと、その後同年四月一七日控訴人等先代は被控訴会社に対し書面で苦情を述べたのに対し、被控訴会社は同月二六日付書面で同社の鳥取出張所あるいは山陰林材事務所と緊密な連絡をとり交渉されることが互に便利である旨を回答したのにかかわらず、控訴人等先代においてその後右交渉に努力した事跡のないことが認められ、右損害の発生には控訴人先代にも過失の一半があつたものというべきであつて、この点を考慮斟酌するとき、被控訴会社は控訴人等先代に対し、前記損害額の半額たる二八万四、〇〇〇円の限度で損害賠償責任を有するものとするのが相当である。

第四結論

以上のとおりであつて、原審原告山本美吉(控訴人等先代)の各請求中、被控訴会社に対する分は、右認定の限度で正当として認容すべきであるが、その余の請求並びにその余の被控訴人等に対する各請求はいずれも失当として棄却すべきである。原判決中、右と異なり被控訴人Y1に対する請求の一部を認容した部分は相当でないけれども、同被控訴人より不服申立がない以上これをそのまま維持するのほかなく、結局本件控訴はすべて理由がないことに帰し棄却を免れないところ、原審原告山本美吉が昭和四一年三月一四日死亡し、控訴人山本志磨がその妻として三分の一、その余の控訴人等がその子として各二一分の二づつの割合を以て同原告の権利を承継したものであることは当事者間に争のないことに徴し自ら明らかであるので、原判決主文第一、二項の同原告の受給金額を控訴人等の右相続分に応じた金額に変更することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第九三条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。(金田宇佐夫 輪湖公寛 中川臣朗)

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